Vol.7
 「螢の光、窓の雪、・・・」 昔の人は螢の光や窓の雪明りで本を読んだらしい。そんなばかな、暗くて本など読めるわけがない、と現代の我々は思ってしまう。でも真っ暗やみの中では、キーホルダーに付いている発光ダイオードが眩しいくらい明るく感じるのだから、ロウソクより明るい照明がなかったような時代には、螢の光もけっこう明るく感じたのかも知れない。しかし螢は点いたり消えたり忙しいから、たとえ100匹カゴに入れたところでチカチカして本は読みにくいと思う。
 人間の目は、暗やみにいると目の感度はどんどん上がるようだ。都会で夜空を見上げても、見える星の数は本当に数えるほどしかない。そんなとき、両手で筒を作り、双眼鏡を覗く要領で空を見てみよう。しばらくすると今まで星など無かった所に、ポツッ、ポツッと星が見え始めるはずだ。手で周りの明るい光が遮断されて、目の感度が良くなったせいだ。
 キャンプで使える照明器具で最も明るいのは燃料を加圧してマントルを燃やすランタンの類いだろう。暗い方はロウソクだろうか。ランタンは電球に換算して60ワット以上の明るさがあるから、本は楽に読めるし、山の中でも家の居間にいるのと変わらなくすごせる。ロウソクの灯りだって本は読める。が、難しい本はやめたほうがいい。すぐに眠くなる。私は最近老眼が進んだので、ロウソクの灯りで本を読むのはちょっとつらい。このキャンピングカーの灯りは、サブバッテリーを電源にした10ワットの蛍光灯だ。蛍光灯の光は好きではないが、蛍光灯は消費電力が少ないので電源の節約になる。10ワットの灯りでも、じゅうぶん本が読めるし文字も書ける、生活に困ることはない。人は条件が悪くてもそれなりに何とかやって行けるものらしい。
 キャンプ生活で消費するエネルギーはどのくらいだろう?都会の生活で使うエネルギーと比べたら遥かに少ないはずだ。世の中には、東京電力のでん子ちゃんが真っ赤になって怒るほどエネルギーの無駄遣いをしている人がいるから、そんな人の生活と比べたら何百分の一かも知れない。
 あるアメリカの学者の試算によると、地球環境を変えずに現在のアメリカ人の平均的生活を維持しようとすれば、地球人口の限度は2億人だという。人口2億5千万人のアメリカ合衆国だけで定員オーバーだ。もはや50億を超えた人類全員が先進国並みの生活をすることは不可能なのだ。ただし、アメリカ人の平均エネルギー使用量は一人当り日本人のざっと2倍半らしいから、日本人の平均エネルギー使用量で計算すると、地球の定員は5億人に増える。さらに、日本人の平均使用量の10分の1のエネルギー使用で心豊かな生活ができるならば、50億の人類が地球環境を変えずに心豊かな生活ができることになる。めでたし、めでたし。
 キャンプに持って行ける道具は限られている。だから、普段の暮らしよりずうーっと不便なはずなのに楽しい。むしろ私は不便だから楽しいと思っている。限られた道具と生活条件の中で、どれだけ快適に暮らせるか、この工夫が面白いのだ。日常の暮らしの中でも、この不便を楽しむという気持ちのゆとりがあれば、エネルギーの使用量を減らしても心豊かな充実した暮らしができると思う。そうすれば地球環境を変えずに50億の人間が楽しく暮らせるかも知れない。
 しかし今この地球上で50億の人が暮らしているということは、先進国といわれている国以外の多くの人々がキャンプのような生活をし、またそれ以下の生活しかできない人が多くいるということだ。その人々に対して「地球の環境保全の為に、この先便利さを追求しないで今の暮らしのままでいて下さい」という権利は誰にもない。我々がエネルギーを節約して暮らすことはもはや義務で、エネルギーの無駄遣いは犯罪である。
7月25日
 オレは今 City のクルマ屋(正式名は The Garage )に居る。親爺さんに車とブギーを預かってくれるように頼んだところだ。親爺さんは快く引き受けてくれたが、オレは後ろ髪を引かれて落ち着かない。突然、日本に行かなくちゃならないことになった。日本にいる誰かの陰謀だ。オレを忙しくさせたい奴がいるらしい。
 Headache Edge の森から Lira に戻った後、King Wind Valley に入って水力発電所でも見学しながら谷を奥まで詰めてみようかと思っていた。谷には何ケ所かの水力発電所があるらしいが、谷の景観に紛れてか、気付かないほど目立たないらしい。どんな物か見てみたかった。戻ってきたら King Wind Valley から再出発するつもりだ。
 約2ヶ月間、ポレポレ生活になり切ってしまったこの身が、日本の暮らしに適応できるかちょっと心配だ。用事を済ませて一刻も早く戻ってきたい。どうせ行かなくちゃなんないんだから、日本にはポレポレ精神を持ち込んで、島には何かお土産を持ってくることにしよう。とにかく明日日本へ向かって発つ。